『死んだら飛べる』キング編集!飛行機ネタのホラー小説短編集の感想

『死んだら飛べる』スティーヴン・キング

今回はスティーヴン・キングとべヴ・ヴィンセント編集

『死んだら飛べる』をご紹介します。

スティーヴン・キング、アーサー・コナン・ドイル、

ジョー・ヒル他豪華執筆者による

飛行機にまつわる怖い短編小説16編と詩1編を収録した作品集です。

スティーヴン・キングにとって

「旅客機での旅に感じる魅力や昂奮は、

せいぜい直腸検査とおなじ程度だ」そう(笑)。

でも、飛行機の旅は、「閉所恐怖症、高所恐怖症、そして自由意思の剥奪」

燃えやすい酸素が満たされた飛行機という金属チューブに閉じ込められたうえ、

「引火性の高いジェット燃料の上に座るという事実」を考えると

「ホラーとサスペンスのアンソロジーの題材に、

これ以上適切なものがあるだろうか」?

という訳で、空の旅の恐怖が味わえるアンソロジーです。

スティーヴン・キングの「乱気流エキスパート」を含めて、

日本語訳が出版されるのが初めての作品も10編あります。

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「解放」ジョー・ヒル

あらすじ

ヴァイオリニストのアーノルド・フィデルマンは、飛行機に搭乗中、機長からの

「グアム島で閃光を確認したという連絡を受けました」というアナウンスを聞く。

どうやらグアムは北朝鮮から核攻撃をうけたらしい。

フィデルマンはかつて同性の韓国人男性と恋愛関係にあった。

10歳年下でコミックが好きで、ヴァイオリンの腕は抜群。

彼の目はいつも恥ずかしげで、幸せな自分にとまどっているようだった。

そう、彼が自殺するまでは。

ほどなく、アメリカが報復攻撃を開始すると、

飛行機は着陸予定だったアメリカの空港に着陸できなくなる。

もはやアメリカ国内に安全な場所はなくなった‥‥。

感想

ゲイの客室乗務員ヴォーステンボッシュが登場した辺りから私の脳内で映画の

「アイム・ソー・エキサイテッド!」が上映され始めました(笑)。

ヴォーステンボッシュは、「しらふの時には冷静でプロ意識旺盛」、

「酔うと毒舌全開のゲイっぽさで周囲を楽しませる」というキャラクター。

やだ!楽しそう♪♪♪

誰か、ヴォーステンボッシュにじゃんじゃんお酒を飲ませてちょうだい!

いやいや、そうそう楽しい小説ではないんですがね(^o^;)

余談ですが、ご参考までに「アイム・ソー・エキサイテッド!」の

予告動画を貼っておきます(笑)。

「アイム・ソー・エキサイテッド」の紹介記事はこちらです

「誘拐作戦」ジョン・バーリー

あらすじ

スチュワーデスのソンダーガードは搭乗に先だって、

自分そっくりな何者かによって誘拐された。

犯人一味は、彼女以外のスチュワーデスも誘拐し、

被害者の代わりに飛行機に搭乗する。

そして、飛行機に搭乗した後は次々と乗客を拘束し、

異世界に繋がる「ゲート」へ放り込み始めた。

この飛行機は機械の故障により墜落する運命にあり、

飛行機が墜落炎上するタイムリミットが迫っていた。

誘拐犯たちの任務はタイムリミットまでに

乗客と乗務員全てを「ゲート」の向こうに送ること。

はたして任務は成功するのだろうか‥‥。

感想

「ゲート」の向こうでの生活はざっくりとしか書かれていないので、

続きが凄く気になるSF中編。

面白い設定なので、中編じゃあもったいない!と思っていたら、

1983年に『ミレニアム』というタイトルで長編化され、

1989年には映画化もされたそう。

長編『ミレニアム』も要チェックですね。

「貨物」E・マイクル・ルイス

あらすじ

1978年、空輸航空軍の輸送機が大量の子供達の棺を乗せて離陸した。

カルト集団によって殺された子供達だった。

機上輸送係は棺をしっかり梱包し固定していたが、

棺を納めた貨物室から異音が聞こえてくる‥‥。

感想

棺から変な音が聞こえてくるというオーソドックスな怪奇小説。

でも、妙な音のする棺から逃げることができないというのは、

飛行機という密室ならではの恐怖ですね。

「大空の恐怖」アーサー・コナン・ドイル

あらすじ

ジョイス= アームストロングの断片的な書簡がイギリスの農場で見つかった。

書簡はバラバラに農地に点在する形で見つかっており、

書簡の側にはパイプや割れた双眼鏡も落ちていた。

彼は飛行士であったが、現在は行方不明。

飛行機の発明から20年がたち、

彼は自分の飛行機で3万フィート以上の上空を飛ぶことを夢見ていたという。

そして、離陸したまま戻ってこなかった。

彼はどうなったのか?

前人未踏の上空で何を見たのか?

感想

読んだ直後に思ったのが、

あれ?コナン・ドイルって、飛行機の時代に生きてたっけ?という疑問でした。

スティーブン・キングの前書きによると、この作品が書かれたのは1913年。

ライト兄弟が59秒の有人飛行に成功したのが1903年なので、

上空への飛行が現実的ではなかった頃に書かれています。

当然、筆遣いも夢見がちなファンタジーの雰囲気になっています。

でも、空に夢を見るって素敵ですよね。

空へのロマンを感じる小説になっています。

「高度2万フィートの悪夢」リチャード・マシスン

あらすじ

ウィルソンは飛行機の中でイライラしていた。胃の調子が悪い。

今乗っているのが飛行機じゃなくて列車だったらどんなに良かったか。

だが、世の中そんなにうまくいかない。彼は飛行機に弱いのだ。

きまって酔ってしまう。

外は悪天候で稲妻が空を白く染め、ウィルソンは顔をひきつらせた。

突然胃袋の筋がぎゅっと縮みあがり、眼球が飛び出しそうになった。

翼の上を何かが這っているのを見たのだ!

感想

旅客機でタバコが吸えただけでなく、

機内に拳銃を持ち込むことさえ可能だった時代の物語。

昔、テレビドラマ「トワイライトゾーン」(?)でこの作品を見たような気がします。

飛行機の翼の上で奇怪なゴブリンがチョロチョロしている映像に覚えがあります。

「トワイライトゾーン」も面白かったけど、小説も面白いですよ。

大嫌いな飛行機に乗って精神的に追い詰められた

ウィルソンの強迫観念がリアルに迫ってきます。

果たして、ウィルソンが狂ってしまったのか? それとも?

「飛行機械」アンブローズ・ビアス

あらすじ

飛行機械を作った男が、その飛翔を見学しないかと多くの人を招いた。

所定の時刻に彼は機体に乗り込みエンジンを始動させ離陸する。

しかし、機体はすぐさま落下。飛行士は機体から飛びだ出したが‥‥。

感想

9行ほどの短編小説。投資についてのシニカルなジョークですね。

「ルシファー!」E・C・タブ

あらすじ

フランク・ウェストンは死体保管所の係員。

彼の仕事では、平気で悪事のできる男が時にささやかな余録にあずかれる。

彼は新しく届いた死体から指輪を外して自分のものにした。

指輪に金銭的な価値は無さそうに見えた。

だが、指輪には時間を少しだけ操作する力があったのだった。

感想

1972年ヨーロッパSF大会最優秀短編特別償受賞作品。

ネタバレになるといけないので詳細は書けないけど、

ラスト主人公がはまってしまった苦境は、

指輪を使うタイミングを何度も調整していくことで

解決できるのでは?と思ったり‥‥。

「第5のカテゴリー」トム・ビッセル

あらすじ

ジョンは飛行中の機内で目を覚ました。

隣に座っていた乗客はいなくなっていた。

それどころか、40余りのビジネスクラス全体の乗客がもぬけの殻になっていた。

なにかが起きたのだ。彼はエコノミークラスのエリアに行ってみた。

しかし、目の前にあったのは、空っぽの座席が並ぶ30の暗い列だけだった。

皆はどこへいってしまったのか‥‥。

感想

戦場における「尋問」の法的解釈と、実際に行われた拷問を伴う「尋問」の

解釈の乖離性にまつわる短編小説。

学問上での、同時に政治的な力関係を配慮した上での法的な見解の愚かさと

現実の血生臭さを描いています。

「2分45秒」ダン・シモンズ

あらすじ

ロジャー・コルヴィンが目を閉じると鋼鉄のバーが膝に降りてきて、

車両は急勾配を登りはじめた。

コルヴィンは先頭車両に乗っていた。

ジェットコースターの登り勾配の先に目をこらし、

頂点とその先の虚空を感じ取った‥‥‥。

感想

高所恐怖症の人はよりスリルが楽しめる小説。

タイトルの2分45秒は、落下の時間であり、

墜落の死の瞬間までいろいろなことを考えられる時間。

「仮面の悪魔」コーディ・グッドフェロー

あらすじ

ライアン・レイバーンは金のため南米のショクア族の生き残りから、

手彫りの仮面を奪った。

アメリカに帰ったら、高値で売るつもりだ。

彼は手荷物と一緒に飛行機の機内に仮面を持ち込む。

機内で彼の隣席に盲目の少女が座った。

彼女はロザリオを両手で握りしめ、祈っている様子だが激しい咳をしていた‥‥。

感想

南米の土着の神の呪いが仮面にやどり、周囲に死を撒き散らしていくホラー小説。

不気味でグロテスクな土の匂いがする短編。

「戦争鳥」デヴィッド・J・スカウ

あらすじ

軍用機とその搭乗員を指す俗語、戦争鳥(ウオーバード)。

テーブルに差し向かいで座る老人は、

それがまるで本当の生き物であるように語りはじめた。

「この目で見た。ああ、グレムリンよりはずっとリアルさ。

俺たちはあれだけたくさんの戦闘で何かを目覚めさせちまったらしい。

で、そいつは目を覚まして、腹ペコだと気づいたんだ。

あいつが餌を食らうのは大空だ‥‥‥。」

感想

帰還兵である老人の思い出話。寓意的な物語。

満腹を知らない戦争は、食いたりない思いを抱えて今日も餌食を探している。

人間の残虐性と欲望の際限のなさへの恐怖。

「空飛ぶ機械」レイ・ブラッドベリ

あらすじ

紀元前400年、中国の皇帝元は万里の長城の脇に玉座をかまえ、

領民は幸せすぎもせず悲しすぎもせず、平和に暮らしていた。

ある日侍従が皇帝に「翼を生やして飛んでいる男があります」と報告に来た。

皇帝はゆっくりお茶を飲んでから事実の確認に出向くが‥‥‥。

感想

国の防衛と飛行技術の進歩についての物語。

牧歌的な雰囲気だけど、恐ろしい作品。

ブラッドベリらしい軽やかさがあるけれど、人間は残酷ですね。

「機上のゾンビ」べヴ・ヴィンセント

あらすじ

「自分はみんなを飛行機で運べる」

バリーがそう言った時、マイルズは大雑把な計画を提示した。

「これが終わるまで、安全でいられるどこか遠くへ行こう」

と周囲に集まった者たちに言う。

“これ”が終わらなかったらどうするか、聞くものはいない。

あの悪鬼たちが迫っていた。

そして、マイルズのいるグループにはナイフと斧しか武器がない。

感想

スリル満点のゾンビ・ホラー小説。地上はゾンビであふれ、空が唯一の希望。

だが、本当に空は安全なのか?

この短編はサミュエル・L・ジャクソン出演の

映画にインスパイアされた作品とのこと。

「彼らは歳を取るまい」ロアルド・ダール

あらすじ

私たちふたりは格納庫の側に置かれた木箱に座っていた。

「もう帰ってきてもいい頃だ」

フィンが出撃してから長い時間がたっていた。

「どうやらやられたみたいだな」

私は言った‥‥‥。

感想

第二次世界大戦の時に戦闘機に乗って多くの戦闘に参加した

ロアルド・ダールが書いた鎮魂歌。

空に散ったたくさんの命に捧げる、静かで激しい哀歌。

「プライベートな殺人」ピーター・トレメイン

あらすじ

飛行機のトイレ内で乗客の死体が見つかった。

トイレには内側から鍵がかかっていた。

自殺か? だが、凶器が見当たらない。

死んでいたのは、多国籍メディア企業の社長で敵の多い人物だ。

他殺の可能性も視野に入れながら、

同じ飛行機に乗り合わせた犯罪心理学者が捜査に乗り出す‥‥。

感想

とても読みやすいミステリ短編小説。密室殺人もの。

作者のピーター・トレメインはピーター・エリスのペンネーム。

7世紀のアイルランドを舞台にした「修道女フィデルマ」シリーズで有名。

「乱気流エキスパート」スティーヴン・キング

あらすじ

電話が鳴ったとき、クレイグ・ディクスンはフォーシーズンズホテルの

ジュニアスイートで豪華な朝食をとっていた。

電話は差配屋からで次の仕事の依頼だった。

ボストン発フロリダ州サラソタ行きの

直行便の飛行機に乗るように言われたクレイグは、

その言葉に従って飛行機に乗る。

そして、激しい晴天乱気流に見舞われることなった‥‥‥。

感想

リアルで豊かな想像力が人々を救うファンタジーホラー小説。

想像力が本人を(余得はあれ)苦しめるものであり、

本人以外の人を楽しませるものであるという点は

キングの自伝的な要素かと思います。

書き下ろしの新作なので、キングファンの方は楽しめると思います。

「落ちてゆく」ジェイムズ・ディッキー

あらすじ

29歳のスチュワーデスがひとり、

飛行中に突然開いた非常口から機外に吸い出された。

やがて地上に墜落するまでの間、

まるで夢を見るように、飛翔の幻想の中にたゆたう‥‥‥。

感想

飛行機の非常ドアが開いてスチュワーデスが空に吸い出されてから、

地上に墜落するまでの間を叙情的に描いた詩。

落下といえば恐ろしいけれど、

落下というよりも飛翔に近いようなロマンティックでさえある作品。

1960年代にはこういう事故が実際に何度も起きていたそうです( ̄□||||!!。

びっくり。

ま と め

ホラー、未来SF、ファンタジー、ミステリー、

叙情的で幻想的な詩などなど様々な作品が収録されています。

読みやすい大衆小説から難解な作品まで色々あります。

17作品もあるので、中にはピンとこない作品もあるかもですが

きっとお気に入りの作品に出会えるのではと思います。

次回飛行機に乗るときに、

お持ちになって機上で読んでみるのはいかがでしょうか?

臨場感たっぷりで楽しめますよ♪

※最後まで読んでいただいて、ありがとうございました(^▽^)

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