『夏の雷鳴』スティーヴン・キングのホラー短編集のあらすじ、感想

スティーヴン・キング『夏の雷鳴』

2020年10月10日発行スティーヴン・キングの、ホラー短編集『わるい夢たちのバザールⅡ・夏の雷鳴』をご紹介します。

収録作品は、表題作のほか、「ハーマン・ウォークはいまだ健在」「具合が悪い」「鉄壁ビリー」「ミスター・ヤミー」「トミー」「苦悶の小さき緑色の神」「異世界バス」「死亡記事」「酔いどれ花火」の合計10編。

収録小説それぞれのあらすじと魅力、感想などをお伝えします。

2009年~2015年までに執筆された、日本初出作品。

いかにもキングらしい怖いホラー小説から、笑える小説まで、様々なテイストの作品が集められています。

各作品の前にキング自身による解説が、数ページついているのがファンには嬉しい特典。

短編集に収録されてる個々の作品って、ネットで詳細を検索してもなかなか出てきません。

だから後から

「あの作品読みたいけど、どの本に収録されてるのか思い出せない」

ということが多いです。

なので、そういう時のために後から検索できるように、各短編毎に記載していきます。

なお、『わるい夢たちのバザールⅠ・マイル81』の紹介記事はこちらです。

『わるい夢たちのバザールⅡ・夏の雷鳴』は、『わるい夢たちのバザールⅠ・マイル81』を読まずに読んでも大丈夫です。

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「ハーマン・ウォークはいまだ健在」

あらすじ

ブレンダは生活保護を受けながら4人の子供を育てているシングルマザー。

ある日宝くじで2700ドルを当てた。

そのお金で借金を払い、残金でママ友のジャスミンと一緒に、両親の元を訪ねようと計画。

ジャスミンは3人の子供がいるシングルマザー。

総勢9人はレンタカーを借りて、ドライブの旅に出るが‥‥。

感想と解説

キングが、実際に起きた悲惨な交通事故にインスパイアされてできた小説。

ハーマン・ウォークは、1915年生まれのアメリカの作家。

1952年、『ケイン号の叛乱』でピューリッツァー賞を受賞。

代表作は『ケイン号の叛乱』『戦争の嵐』。

キングは作中で、ウォークの言葉を引用しているので、このタイトルがついています。

ちなみに、執筆当事健在だったウォークは、2019年に103歳で亡くなりました。

「ハーマン・ウォークはいまだ健在」は、生活にあえぐシングルマザーの苦悩と出口の見えない閉塞感が描かれた小説です。

ショッキングでパワフルなラストなので、巻頭にふさわしい作品。

「具合が悪い」

あらすじ

「わたし」は妻エレンと愛犬と一緒に暮らしている。

結婚して26年。

エレンは最近体調が悪い。

元々心臓が弱い上に気管支炎にかかったのだ。

ちょうどその頃、ビルの入居者から悪臭の苦情があり、ビルの害虫駆除作業をすることになった。

「わたし」は作業を了承したものの‥‥。

感想と解説

キングはコーギー犬を飼っていて、時々彼のTwitterでかわいい姿が見られます。

今回の「具合が悪い」に登場する犬は物語の不気味さを盛り上げる名脇役として登場。

グロテスクで切なくて哀れな短編です。

『ペット・セマタリー』風味。

「鉄壁ビリー」

あらすじ

1957年アメリカ。

ウィリアム・ブレイクリーという新人選手がメジャーリーグ・チームに入団した。

少し知能に障がいがあったが、とても優秀な選手だった。

瞬く間に人気者になり、観客からも外の選手からも好かれていたが‥‥。

感想と解説

野球好きで有名なキングが書いた野球にまつわる物語。

キング世代の野球ファンにはきっと刺さると思います。

野球に興味がない読者には、ちょっと退屈で読むのがしんどいかも。

とはいえ、『トム・ゴードンを愛した少女』(野球好きの少女を主人公にしたキングの小説)程は退屈ではないです。

短編なので、サクッと読めるし、キングらしい苦味がきいた短編です。

『グリーン・マイル』と比較すると面白いです。

「ミスター・ヤミー」

あらすじ

老人養護施設で暮らすデイブは友人オリーから昔出会ったとても魅力的な人の話を聞く。

しかも、その人が以前と変わらぬ姿で最近また現れたと。

オリーは自分の死が近いと言うが、デイブはそれを認めたくない。

しかし、死は確実に近づいていて‥‥。

感想と解説

タイトルの「ミスター・ヤミー」とは「美しくてそそられるが手が届かない。そうしたもの全ての要約」。

若いときにちらっと見かけただけの、でもずっと心に鮮明に残っている美しい存在。

そんな存在への憧憬を少しセンチメンタルに描いた短編。

詩的な美しい作品に仕上げることもできたと思うけど、キングなので、現実寄りのリアルな仕上がりになってます。

「トミー」

あらすじ

トミーは1969年に白血病で亡くなった。

ヒッピーだった。

僕たちは煙草を吸い、マリファナを吸い、クイアーだった彼に乾杯をした。

今彼はベルボトムにヘッドバンド、サイケデリックなシャツという出で立ちで、棺におさまっている。

もちろん長髪。

地中に眠るヒッピーたちに祝杯をあげる。

感想と解説

1969年代への郷愁に満ちた詩。

散文形式。

ラブ&ピースを叫び、反戦運動を行い、自分達が世界を変えることができると思っていたフラワーチルドレンたち。

キングはまさにこの世代。

ノスタルジーに包まれた作品。

「苦悶の小さき緑色の神」

あらすじ

事故で重傷を負った富豪ニューサムは、神の力で患者を癒すという牧師を病床に招く。

ニューサムの看護師キャサリンはいかさま伝道師の訪問を喜ばない。

しかし、牧師の秘技が始まると異様な何かの存在が感じられるようになり‥‥。

感想と解説

1999年、交通事故に遭遇し、重傷をおったキングが自ら体験した苛酷なリハビリを題材にしてつくった作品。

リハビリのとてつもない辛さがリアルに伝わってきます。

「異世界バス」


あらすじ

ウィルソンはその日、大事な仕事の約束があった。

あらかじめ時間に余裕をもって出掛けたものの、ニューヨークは大渋滞。

タクシーは遅々として進まない。

イライラしながら、ふと車の外を見ると、タクシーの横に止まっているバスの乗客が目に入ってきた。

美しい女性が雑誌を読んでいた。

彼女の隣には黒いレインコートを着た男。

男はブリーフケースを引っ掻き回して何かを探していたが‥‥。

感想と解説

劇的な一瞬の邂逅を鮮烈に描いた作品。

もし自分がウィルソンの立場になったらどうするか、良識に従って行動するだろうか?そんなことを思わずにいられません。

実に短い小説だけど、喚起されるイメージはとても鮮やかです。

「死亡記事」

あらすじ

「わたし」は<ネオン・サーカス>というウェブサイトに記事を書く仕事をしている。

担当は死亡記事。

読者は刺のある皮肉な笑いが大好きで他人の不幸は蜜の味というタイプの人間。

ある日上司と喧嘩をした「わたし」は、怒りに任せて冗談半分で上司の死亡記事を書き上げる。

すると、何かの偶然か上司が記事のとおりに急死して‥‥。

感想と解説

キング版「デスノート」。

キングの短編「砂丘」は、主人公がデスノートを垣間見ることができるだけだったけれど、この作品では、主人公がまさにデスノートを書いていくスタイル。

デスノートを書くことができる人間と、それを利用しようとする人間とのやり取りが面白い!

もっと膨らませたら、面白い映画になりそうです。

「酔いどれ花火」

あらすじ

「とうちゃん」が心臓発作で亡くなった。

「おれ」と「かあちゃん」は、「とうちゃん」の保険金で有閑階級になった。

そして、「おれたち」はのんびりと湖畔のロッジで暮らすことができるようになる。

湖の対岸には、マッシモ家の本物の豪邸があった。

マッシモ家にはテニスコートとバトミントンコート、おまけに蹄鉄投げゲームの場所まである。

ある年の夏、7月4日独立記念日の夜、「おれ」と「かあちゃん」は花火を楽しんだ。

それを見た対岸のマッシモ家の子供たちが、自分もやりたいと言い出した。

マッシモ家はでかくて長持ちする花火をぶっぱなした。

よし。それなら、こちらも負けられない。

爆竹をたくさん用意して‥‥。

感想と解説

気楽に読めるユーモア小説。

酔っぱらいの悪のりを面白おかしく描いた、愛すべき短編。

巻末の訳者あとがきによると、映画化に向けて準備中だとか。

派手な映像が楽しめそうです。

「夏の雷鳴」

あらすじ

核兵器戦争後の世界。

ロビンスンは灰色の犬のガンダルフと二人暮らし。

妻と二人の娘は死んだ。

森のいきものたちもすべからく死んだ。

魚たちもそのうち姿を消すだろう。

世界今は静寂に包まれていた。

遠からず自分も静寂の仲間入りをすることになる‥‥。

感想と解説

静かな世界の終末。

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を思い起こさせます。

ラストにふさわしい、しんみりと落ち着いた味わいの作品です。

終末を描いたキングの作品はいくつかあるけど、こんなに静かな終末は外にはありません。

まとめ

スティーヴン・キングの小説を集めたホラー短編集。

ホラー小説からユーモア小説まで各種テイストが取り揃えてある楽しい本です。

収録作品はそれぞれ独立しているので、どこから読んでも大丈夫。

前編である『わるい夢たちのバザールⅠ・マイル81』を読んでなくても問題ありません。

気軽に隙間時間に読めますので、いかがでしょうか?

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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