『いかしたバンドのいる街で』スティーヴン・キングの短編集の感想レビュー

いかしたバンドのいる街で

スティーヴン・キングの、ホラー短編集をご紹介します。

収録作品は、表題作のほか、「献辞」「動く指」「スニーカー」「自宅出産」「雨期きたる」の6編。

キングが若い頃書いた、比較的古い作品を集めた短編集。

ハードカバーの『いかしたバンドのいる街で』とは収録作品が異なりますので、ご注意下さい。

文庫本の『いかしたバンドのいる街で』は、ハードカバーの『いかしたバンドのいる街で』の半分程しか収録していません。

残りの半分は、文庫本『ドランのキャディラック』に収録されています。

最近のキングの短編は非常にまとまりが良いし、味わい深くて素晴らしいけれど、若い頃書いた勢いのある、パワフルな作品も秀逸です。

この短編集に収められているのは、キングいわく「(読者に)噛みつく」作品です。

ゾッとするスリルを味わえます!

あなたも活きのいいホラー小説に、鋭い歯でがっちり噛みつかれてみませんか?

では、各小説のあらすじと魅力をお伝えします。

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「献辞」

あらすじ

マーサは、ニューヨークでも指折りの長い歴史を誇る豪壮なホテルで清掃主任として働いている。

昨日彼女は、オハイオに住む息子ピートの処女小説の本を初めて手にした。

献辞のページには、母親への感謝と愛情が表明されていた。

彼女と彼女の親友は、ホテルの小さなバーに行き、シャンパンでお祝いすることに。

そして、ほろ酔いになったマーサは、親友に初めてピートの本当の父親について話し始める。

ピートの本当の父親はピーター・ジェフリーズ。

文才はあるが、自堕落なろくでなしでだった‥‥。

感想と解説

シングルマザーの苦労話であると同時に、なんとも不気味なテイストの短編ホラー小説。

生理的嫌悪感を感じる読者もいるかも。

巻末のキングの解説によると

「1985年に発表されたこの作品は、その後に書いた『ドロレス・クレイボーン』(1993年)という長編の試作品」

ということです。

『ドロレス・クレイボーン』とは全然違うストーリーですが、子どものいる貧困家庭の女性を主人公にしている点は同じです。

そういう女性に対する、キングの同情と思い遣りが感じられる点も同じ。

読み比べてみるのも楽しいです。

※この小説は、ハヤカワ文庫NVのアンソロジー『スニーカー』にも収録されています

『スニーカー』は、スティーヴン・キング、ダン・シモンズ、ジョージ・R・R・マーティンの、3人のホラー小説が収録されている優れものの本です。

「動く指」

あらすじ

公認会計士ハワードは、自宅のバスルームの洗面台で妙なもの見つけた。

洗面台の排水溝から、一本の指が突き出ていたのだ。

人間の指が。

我が目を疑うハワードだったが、指は依然としてそこにあり

そして、動いている。

精神疾患による幻覚か? 能腫瘍か?

意思を持って動くを始末しようと考えたハワードは、劇薬の液状配水管クリーナーに掛けて指を溶かそうとするが‥‥。

感想と解説

ユーモラスでシュールでグロテスクな短編。

ミニマリズム的な手法に近いです。

キングによると、

「短編小説では、作者は今なおときおり、『これこれのことが起きた。なぜ起きたかはきかないでくれ』ということを許されている。」

とあります(笑)。

この作品もそういう小説のひとつ。

排水溝から現れる指は何の暗喩なのか考えるのも面白いですし、まずはなにより、その不気味さと主人公のユニークな「指」対処法を楽しむことができます。

「スニーカー」

あらすじ

仕事で訪れたビルのトイレで、ジョン・テルはスニーカーに気づいた。

3階の男子用トイレで一番手前のボックスのドアの下にのぞいている古いスニーカー。

最初に見たときはほとんど気にもとめなかった。

が、翌週同じトイレの同じボックスで、同じスニーカーをまた見た。

その時は、この前と同じ奴だなと思った。

同時に、ひとつ妙なことに気づいた。

スニーカーの上に死んだ蝿が転がっている。

4ヶ月後、同じトイレの同じボックスでまた同じスニーカーを見た。

まさか。しかし、同じスニーカーに間違いない。

前回見たときと違っているのは、スニーカーの回りに蠅の山ができていることだった‥‥。

『スニーカー』スティーヴン・キング

感想と解説

読み進めるうちに、恐怖が加速度的に増していくパンチのきいた秀作。

いつも同じトイレに行くという、ありがちな習慣に潜む背筋が冷たくなる恐怖と惨劇を巧みに描いています。

身近な恐怖をリアルに描いているので、トイレに行くのが怖くなるかも(笑)。

※この小説は、ハヤカワ文庫NVのアンソロジー『スニーカー』にも収録されています。

『スニーカー』は、スティーヴン・キング、ダン・シモンズ、ジョージ・R・R・マーティンの3人のホラー小説が収録されています。

「いかしたバンドのいる街で」

あらすじ

クラークとメアリーは、人里離れた田舎道をドライブ中に道に迷ってしまう。

やっと、山間の小さな町にたどり着いた時には、ホット胸を撫で下ろす。

町の入り口の看板には

「ようこそ!オレゴン州 ロックンロール・ヘブンへ」

と書いてある。

町並みは美しく広告にのってもおかしくないほどだが、どこか整い過ぎていて、落ち着かない感じがする。

更に、通りで見かけた若者はどうも見覚えがあるような気がする。

メアリーはすぐにでも町を出ていきたくなった。

しかし、クラークは違和感を感じていないようで、レストランに行くと言ってきかない。

しかし、レストランには聞き覚えのある声のウエイトレスがいた。

いかし、彼女は死んだはずでは?‥‥。

感想と解説

ロックが大好きなキングの、キング版「ロックンロールの天国」。

有名ミュージシャンがたくさん出てくるので、ロックファンはワクワクしながら読めそう。

この短編集の中で唯一映像化された小説です。

「自宅出産」

あらすじ

おそらくこれが世界の終わりだ。

それをかんがえれば、マディ・ペイスは我ながらすこぶる上出来だと思った。

この世の終わりという事態に、自分はうまく対処できているのではないか。

身重であることを考えあわせるとなおさら。

マディは小さな島に住んでいた。

島には小さな墓地がひとつしかない。

しかも、墓地に埋められている多くの棺は空っぽだ。

海で死んだものは遺体がないからだ。

かつてマディはそのことをいたましく思ったけれど、今となっては神の恵み、天の助けに思えた。

死者がよみがえり、生者を襲うようになった世界では‥‥。

感想と解説

フォークナーの『8月の光』を彷彿とさせる短編小説。

ホラーだけど、生命力に溢れています。

「ゾンビたちがもし地球を征服したらどうなるかというテーマのもと注文にあわせてキングが書いたゾンビもの。

ゾンビが支配する世界ということだけど、希望のある明るい作品です。

この短編集の清涼剤です。

「雨期きたる」

あらすじ

休暇を田舎で過ごすことにしたグラハム夫婦は、メイン州の小さな町にやって来る。

しかし、町の住民は彼らに引き返すように忠告。

理由は、「雨期が来るから」。

しかも、この町の「雨期」にはヒキガエルが降ると言う。

町の住民にからかわれたと思って不愉快になる夫婦だったが‥‥。

感想と解説

不気味さと可笑しさのバランスが非常に良い短編ホラー小説。

空から降ってくる無数のカエル、という気持ち悪いけど、笑えるビジュアルがユニーク。

何度も読んでも楽しいです。

ギザギザの歯のあるヒキガエルが無双です。

まとめ

スティーヴン・キングの若い頃の小説を集めたホラー短編集。

キングは長編小説をたくさん書いていて、概ね長編の方が評価は高いです。

でも、短編も素晴らしい作品がたくさんあります。

時間がないときに気軽に読めますし、たまには、 キングの短編集もいかがでしょうか?

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