スティーヴン・キングの、ホラー短編集をご紹介します。
収録作品は、表題作のほか、「争いが終わるとき」「幼子よ、われに来たれ」「ナイト・フライヤー」「ポプシー」「丘の上の屋敷」「チャタリー・ティース」の合計7編。
スティーヴン・キングのNightmares & Dreamscspesの邦訳として、2000年に刊行されたハードカバー『いかしたバンドのいる街で』『ヘッド・ダウン』のうち、『いかしたバンドのいる街で』を二分割し、改題したものの一冊目。
二冊目は、文庫本『いかしたバンドのいる街で』。
ハードカバーの『いかしたバンドのいる街で』と、文庫本の『いかしたバンドのいる街で』は収録作品が違いますので、ご注意ください。
キングの初期作品を集めた短編集。
最近のキングの短編は非常にまとまりが良いし、円熟した味わいがあるけれど、若い頃書いた勢いのある、パワフルな作品も素晴らしいです。
特に、ゾッとする特殊なイメージを鮮烈に描いた短編は、短編ならではの勢いと強さがあって非常に魅力的です。
では、各小説のあらすじと魅力をお伝えします。
「ドランのキャデラック」
あらすじ
「わたし」の妻エリザベスはマフィアの犯罪の証人となったため、マフィアのドランに殺された。
「わたし」は、エリザベスの仇を打つため、9年間ドランを追ってきた。
最初は、ぼんやりとした復讐計画しかなかった。
しかし、やがて、ドランの暗殺計画は次第に形を取りはじめ、「わたし」はいよいよ実行の決意を固める。
それは、ドランを彼が乗ったキャデラックを車ごと砂漠に埋めるという計画だった‥‥。
感想と解説
原題は、Dolan’s Cadillac
この作品を読んでいてまず感じるのが、走っているキャデラックをすっぽり落とし穴に落とすって、可能なんだろうか? そんなに上手くいくんだろうか? ということ。
その点キングは専門家に相談したそうなので、少なくとも理論的には可能みたい。
ちなみにこの作品は、巻末のキング自身による解説によると、かなり長い間寝かせておいた作品だそう。
何度も書き直しがされているせいか、主人公の狂気と、生きたまま車ごと埋められる恐怖が、たっぷりと盛り込まれた素晴らしい逸品です。
映画「ドランのキャデラック」
2009年、ジェフ・ビーズリー監督によって映画化されました。
メインキャストは、
- ドラン:クリスチャン・スレーター
- ロビンソン(主人公):ウェス・ベントリー
- エリザベス:エマニュエル・ヴォージア
映画と小説の大きな違いは、キャデラックが穴に落ちてからの主人公とドランのやり取り。
映画の方がドランのキャラがたってます。
概ね原作に忠実なので、原作ファンも十分楽しめます。
「争いが終わるとき」
あらすじ
弟ボビーは、いわゆる神童だった。
2歳で文字を読み、3歳で文字を書き始めた。
10歳で高校を卒業。16歳の時は人類学に没頭。
そして、人間という生き物の性悪さに心を痛めていた。
彼は人類の残虐さを軽減する治療薬の製造を始めたが‥‥。
感想と解説
原題は、The End of the Whole Mess
兄弟がいる読者にはきっと特に刺さる作品。
「地獄への道は善意でできている」って言葉が、時々キングの作品に出てくるけど、この作品はまさに、その言葉通りの作品。
良心が産んだ悲劇の物語です。
「幼子よ、われに来たれ」
あらすじ
小学校教師ミス・シドリーは、ある日子供たちの異変に気がついた。
子どもの顔が何か、別のものに変わっていくその恐ろしい光景をちらっと見たような気がしたのだ。
そのうち、子どもたちはくすくす笑いながらひそひそ話をし、彼らの影は形を替えて流れ出した。
こんなことは、人に話すわけにはいかない。
ミス・シドリーは一人で始末をつけることにした‥‥。
感想と解説
原題は、suffer The Little Children
子どもになにかしら奇怪なものが宿るというのは、「ローズマリーのあかちゃん」や「オーメン」を筆頭によくあるメタファーですね。
この作品の怖いところは、小学校の教師が子供たちの始末をつけようとしたところ。
キングよると、このホラー小説「幼子よ、われに来たれ」は、「悪趣味なジョーク」だそうです。
大人と子どもの世代間の隔絶とか、小学校内での発砲事件とか、社会的な問題を扱った小説として読むこともできるけれど、キングが言うように、ブラック・ジョークとして読むこともできます。
「ナイト・フライヤー」
あらすじ
タブロイド新聞の記者であるディーズは、飛行場での陰惨な殺人事件に興味を持った。
おそらく連続殺人である可能性が高く、しかも、まだそれに気づいた記者がいない。
上手く記事にすれば、特ダネになる。
ディーズは事件を調べ、関係者に話を聞き、殺人犯が毎回夜間にセスナ機で現れるということを掴んだ。
なんと、犯人はタキシードにシルク・タイ、マントまで着ていたという。
犠牲者首には二ヶ所の穴。
どうやら犯人は自分が吸血鬼だと思っているらしい。
ディーズは、記者の本能のまま犯人を追いかけるが‥‥。
感想と解説
原題は、The Night Flier
主人公は、1979年の『デッド・ゾーン』に登場した新聞記者ディーズ。
今回は再登場です。
ブラックユーモアが冴える血みどろホラー小説。
何回読んでもおもしろい非常に優れた作品です。
映画「ナイト・フライヤー」
1997年、マーク・パヴィア監督により映画化されました。
メインキャストは
- ディーズ:ミゲル・フェラー
- ドワイト・レンフィールド(吸血鬼):マイケル・H・モス
血糊多目のスプラッタ風ホラー映画。
原作の雰囲気をよく伝えています。
「ポプシー」
あらすじ
シェリダンは、借金返済のため、子どもを誘拐してトルコ人に引き渡す仕事をしていた。
ある日、ショッピングモールで、迷子の子どもを見つけた。
「ポプシーが見つかんない! ポプシーに会いたい!」
きっと、ポプシーとはこの子の祖父か何かだろう。
「ポプシーはあっちにいるよ」
シェリダンは嘘をついて、子どもを早速車に連れ込もうとした。
が、子どもはどこか妙な感じがした。
「ポプシーはぼくのにおいを嗅ぎあてられるんだ」
「ポプシーは飛べるんだ」
最初は、子どもの無意味な空想に聞こえたが‥‥。
感想と解説
原題は、popsy
「ナイト・フライヤー」とリンクしている小品。
ネタバレになるので、読む順番は本の掲載順の通り、「ナイト・フライヤー」が先で、「ポプシー」が後が良いです。
「丘の上の屋敷」
あらすじ
ニューオール屋敷は、キャッスルロックの一角を見下ろす丘に建っている。
ジョー・ニューオールは繊維産業で成功し財をなした。
彼が妻コーラのために建てたのが、ニューオール屋敷だ。
屋敷は醜怪な建物で、増築する度に醜さが増していった。
やがて、ジョーの娘が生後すぐに死亡。
妻コーラも階段から転落して死亡。
ニューオール屋敷は人を食い物にするという噂がたった‥‥。
感想と解説
原題は、It Grows On You
『ニードフル・シングス』で、リーランド・ゴーントが引っ越してきた屋敷がニューオール屋敷。
『ニードフル・シングス』を読まずに「丘の上の屋敷」を読んでも問題ありません。
巻末のキングの解説によると、『ニードフル・シングス』の「エピローグとしてまことにふさわしく思える」ということです。
不気味でえげつないお化け屋敷もののホラー小説です。
「チャタリー・ティース」
あらすじ
ホーガンは旅先のガソリンスタンドの売店で、チャタリー・ティース(歯の形をしたオモチャ。足が付いていてゼンマイ式で歩く)を見つけた。
息子へのお土産にしようと思い購入。
チャタリー・ティースが入った紙袋を車に乗せたが、ヒッチハイクの青年を拾ったところ、歯が動きだし‥‥。
感想と解説
原題は、Chattery Teeth
日本ではあまり見かけないオモチャ、チャタリー・ティース。
アメリカではメジャーなのかな。
動く歯というイメージが強烈で、大昔に読んだのに全然忘れられません。
読者に強い印象を残す優れもののグロテスクなホラーです。
まとめ
スティーヴン・キングの若い頃の小説を集めたホラー短編集。
読者に強烈なイメージを植え付ける、忘れられない怖い物語を集めてあります。
短編集なので時間がないときに気軽に読めます。
隙間時間にいかがでしょうか?