『マイル81』スティーヴン・キング短編集のあらすじ、感想、解説

スティーヴン・キング『マイル81』

2020年10月10日発行スティーヴン・キングの、ホラー短編集『わるい夢たちのバザールⅠ・マイル81』をご紹介します。

収録作品は、表題作のほか、「プレミアム・ハーモニー」「バットマンとロビン、激論を交わす」「砂丘」「悪ガキ」「死」「骨の教会」「モラリティ」「アフターライフ」「UR」の合計10編。

日本では初出作品。

いかにもキングらしい怖いホラー小説から、穏やかな小説、レイモンド・カーヴァー風の小説まで、様々なテイストの作品が集められています。

各作品の前にキング自身による解説が、数ページついているのが嬉しい特典。

では、各小説のあらすじと魅力、感想などをお伝えします。

短編集に収録されてる個々の作品って、ネットで詳細を検索してもなかなか出てきません。

だから後から

「あの作品読みたいけど、どの本に収録されてるのか思い出せない」

ということが多いです。

なので、そういう時のために後から検索できるように、各短編毎に記載していきます。

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「マイル81」

あらすじ

保険勧誘員ダグ・クレイトンは、バンゴアからポートランドへ車で向かっていた。

途中、泥だらけのステーションワゴンが、放棄されたサービスエリアの侵入路近くに停車しているのを見つけた。

その前方にはオレンジ色のバリア・バレルが吹っ飛ばされて転がっている。

トラブルか?もしかしたら怪我人がいるかもしれない。

心配したダグはステーションワゴンに近づいた。

そして、ドアを掴んだ途端、激痛が炸裂。

指がほとんど失われていた‥‥。

感想と解説

キングの初期の作品『クリスティーン』を思い出させるホラー小説。

小説の前半での幼い少年ピートが兄ジョージとのやり取りは、『IT』に通じるものあり。

古き良きキングの、懐かしいテイストが堪能できる嬉しい作品。

「プレミアム・ハーモニー」

あらすじ

結婚して10年、レイとメアリーは順調だった。

が、最近は些細なことで口論ばかりだ。

今日もドライブの途中で言い争いになり、買い物に行った先で、メアリーは一人で店に入っていき、レイは車内で待つことにする。

しかし、いつまで待っても妻は戻ってこない。

代わりに店員がレイを迎えにやって来る‥‥。

感想と解説

キングによると「レイモンド・カーヴァーの作品を2ダース以上読んだあとすぐに執筆された」のが、この小説。

レイモンド・カーヴァー風味になっているので、いつものキングとはひと味違います。

レイモンド・カーヴァーとキングの味わいがミックスされていて、貴重で面白い作品です。

「バットマンとロビン、激論を交わす」

あらすじ

サンダースンは、特別養護老人ホームに入っている83歳の父親に週二回あう。

父親は認知症が進んでいて、おむつをつけている。

日曜日に外食に連れ出すが、父親は息子のことも分からない。

レストランからの帰り道、アンダースンは交通事故にあい‥‥。

感想と解説

高齢の主人公が更に高齢の父親の世話をするという、一定以上の年齢層の読者には、他人事に感じられない作品。

息子と、息子を認識できない父親との絆が描かれています。

ユーモラスで残酷で愛情深い作品。

「砂丘」


mile81

あらすじ

90歳の裁判官ビーチャーはカヤックで小島に向かった。

島の向こう側の砂丘に行くためだ。

ヒメコンドルがこちらを見下ろしているのが目に入る。

かつて警官に言われたことを思い出した。

「ヒメコンドルはどこに腐乱死体があるのかわかるのではなく、どこでこれから腐乱死体が出るのかがわかるのさ」

砂丘に到着したビーチャーは、砂丘に書かれた名前を目にする。

砂丘にはこらから死ぬ人間の名前が書かれていた‥‥。

感想と解説

スティーヴン・キング版「デスノート」。

シャーリー・ジャクソン的雰囲気で、後味が悪いラスト。

スーパーナチュラルな現象と、原初的で下世話な悪意が描かれています。

でも、書いてあることを鵜呑みにせずに読むと、もう一捻り深読みすることも可能。

「悪ガキ」

あらすじ

死刑囚ハラスは、真面目で穏やかな男だったが、子どもを銃殺した事件で有罪判決を受けていた。

目撃者はたくさんおり、事件は明々白々。

だが、動機だけは不明だった。

死刑執行を目前にして、ハラスは弁護士に動機を話すことにする。

ハラスが殺した子どもは人間の形はしていたが、人間とは違う生き物だったのだ‥‥。

感想と解説

人間に死をもたらす悪意の化身。『IT』のピエロのような存在が登場。

『IT』のピエロにしても、この作品の悪ガキにしても、なんというか独特の魅力があって、キングが何度も描いているユニークな悪鬼。

アメコミのジョーカーみたいな雰囲気があって、ユーモラス。

「死」

あらすじ

ジム・トライスデイルは、少女殺しの罪で逮捕された。

だが、本人は罪状を否定。

少女から盗んだとされる銀貨は見つからない。

バークレイ保安官は、無実の可能性を検討するが‥‥。

感想と解説

スッキリしない後味の悪い作品。

殺人事件の動機や背景は説明されず、逮捕から処刑直後までの部分だけが切り取られて、その部分だけが描かれています。

キングによると、この小説は、いわば降りてきた物語、ということのようです。

「このストーリーは語られなければならなかった。どんな言葉を使用したいのか正確にわかっていたからだ」とか。

人間の愚かさと俗悪が描かれたこの作品、もし、コーマック・マッカーシーが同じあらすじで書いたら、詩的で哲学的でドライな作品になったかも。

キングなので、どろっとしていて粘着質なえげつなさがあります。

まあ、それがキングの魅力でもありますが(笑)。

「骨の教会」


mile81-2

あらすじ

ならず者のグループが、一山当てようと密林に分けいった。

しかし、緑の修羅場で一人また一人と死んでいった。

怪我や病気があっという間に命とりになる。

死のロングウォークの末、ジャングルの先に彼らが見つけたものは‥‥。

感想と解説

この本の唯一の詩。

日本ではキングの詩にはほとんどお目にかからないので、非常に珍しいですね。

詩というと拒絶反応を起こす方がいるかもですが、この作品は物語調になっているのでご安心を。

「モラリティ」

あらすじ

ノラは病身のウィンストン牧師を介護する仕事をしていたが、ある日彼から20万ドル以上の仕事を提案される。

20万ドル以上の仕事の内容は、無抵抗な弱いもの対する暴行。

仕事を受けるかどうか悩むノラだったが、大金の魅力に屈してしまい‥‥。

感想と解説

キングの解説「著者の言葉」によると、モラリティは、「ゴムのように弾力性のある概念ではないだろうか? 比類なき伸縮自在性」とのこと。

人間誰しも経済的とか肉体的に窮地に陥ったら、普段は決っしてしないことでもせざるを得なくなりますよね。

生存本能が表に出て来て、全てを支配するようになります。

案の定、主人公のノラは大金の魅力に屈してしまいます。

一方、牧師はどうでしょう?

信仰は、例えば殉教という形で、その生存本能をも屈服させることがありますが、ならば、好奇心にかられた牧師なら?

好奇心は、モラリティを変化させうるでしょうか?

「アフターライフ」

あらすじ

ウィリアム・アンドリュースは癌で亡くなった。

予定通りの死だった。

18ヶ月間かこっていた痛みが消える。

床擦れが消えている。素晴らしい。

息を吸って、咳き込まずに 吐き出す。素晴らしい。

ふと彼は、タイル張りの廊下にいることに気づく。

廊下の先のドアには「アイザック・ハリス支配人」と記されている。

ドアを開けると、一人の男が立っていた‥‥。

感想と解説

死後の世界についてのファンタジー小説。

60代後半のキングが望む死後世界のイメージを書いたもの。

キングの現世への愛情が感じられる作品。

ラストの主人公の選択は、キングは自身の選択とのこと。

でも、違う選択をする読者もいると思います。

自分ならどうしたいか、考えてみるのも楽しいかも。

「UR」

あらすじ

ウェズリーはアマゾンでキンドルを購入した。

翌日配達便で届いたそれは、見たことのないピンク色をしていた。

そして、キンドルのメニュー画面には、一番下近くに初めて見る《実験的機能》の文字が。

クリックすると《Ur機能》の表示。

《Ur機能》には「Urブックス」「Urニュース・アーカイブ」「Urローカル(工事中)」の3つの選択肢があった。

「Urブックス」を選び、試しにアーネスト・ヘミングウェイを検索してみた。

すると、17894件もの作品が提示された。

その上、画面上に表れたヘミングウェイのプロフィールは、ウェズリーが知っているヘミングウェイのものではない。

しかし、 作品の文体はいかにもヘミングウェイらしいものだった‥‥。

感想と解説

主人公がおびただしい数の平行世界を垣間見るファンタジー・ストーリー。

例えば、今いる世界で早世した作家が平行世界では長生きしていて、その作品を読むことができたら?

それって、めちゃくちゃ魅力的ですよね。

キングには、ウッドハウス並みに長生きして執筆してほしいなあと改めて思いました。

まとめ

スティーヴン・キングの小説を集めたホラー短編集。

勢いのある強い作品から、穏やかな作品まで、多様な短編を集めた本。

キングらしい「あく」が楽しめます。

キングが生きていて、キングの作品が読め幸せを噛み締めることができますよ。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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