スティーヴン・キングの『ハイスクール・パニック』をご紹介します。
この作品は、キングがリチャード・バックマン名義で書いたサスペンス小説で高校生が校内で先生たちを銃撃する物語です。
昔、アメリカの高校の校内で銃乱射事件が起こったときに、犯人のロッカーからこの作品が見つかったことを受け、スティーヴン・キングがアメリカ国内でこの本を回収させた、ということがありました。
でも、日本では全然普通に読めます。
あらすじ
高校3年生のチャールズ・デッカーは、ロッカーの中に火をつけた後、校内で先生二人を射殺。
生徒を人質に教室に立てこもります。
警察隊が学校を包囲し、交渉と突撃の機会を伺うなか、チャールズは、クラスメイトと一緒に奇妙なホームルームを開始します‥‥。
抑圧された高校生の爆発
キングが高校生の怒りの爆発をテーマにしている作品は、他にも『キャリー』があります。
キャリーはいじめられっこの女の子だったけど、今回の主人公は男の子。
事件を起こす前から、粗暴で暴力的です。
先生を射殺するのも平然とやってのけます。
そして、落ち着いた様子で人質のクラスメイトを相手にホームルームを始めます。
クラスメイトとの話し合いで出てくるのは、それぞれの家庭内のいざこざ、両親との不和、思春期にありがちなセックスの問題。
普段友達にも相談できない赤裸々な生の感情が飛び出してきます。
チャールズとクラスメイトは、拳銃を介してはいるものの奇妙な連帯感で結ばれていて
いわば、グループセラピーみたいです。
この作品を読んでいてキングはよく高校生の気持ちが書けるなあと思ったら、この作品は、キングが高校生の時に半分程度書いていたそうです。
で、23歳の頃に後半部分を書き足して完成させたのだとか。
通りで、高校生の心理描写がめっちゃリアルです。
大人世界の代弁者テッドの孤立
クラスメイトの中で唯一、終始理性的な生徒がいます。
いつも真面目で交通違反のキップも貰ったことがないデッド・ジョーンズは、チャールズが先生たちを殺したことを責め、父親への怒りを語るチャールズに
「先生たちを射殺したことを親のせいにするな」
と叱ります。
当初彼はクラス内の「勇気ある良心」のように見えますが、やがて、話が進んでいくにしたがって、クラスメイトとの不協和音が明確になり、デッドの立場は変わっていきます。
大人な考えを持っている彼は、閉鎖されたクラス内という特殊な状況では孤立無縁な存在です。
『蠅の王』の主人公ラルフに似ています。
理知的なラルフも無人島で他のメンバーとうまくいかなくなり、四面楚歌になっていきました。
結局、大人の理論は子供には通用しないですね。
ネタバレ(↓↓↓)
以下ネタバレですので、ネタバレ大丈夫な方のみ
文字の色を反転させてお読みくださいね。
クラスメイトの赤裸々な意見を聞き、ホームルームを終えたとき、チャールズはクラスメイト全員を解放します。
警察の銃撃を何発も受けながら生き延びたチャールズは病院に入院。
有罪判決を受けるものの、責任能力なしとみなされそのままずっと病院で過ごすことなりました。
高校生の抑圧された怒りって、大なり小なりだれでも持っているものだと思います。
大人になってからも、性別による抑圧や、職場や家庭内での抑圧、社会による抑圧など、ストレスはたくさんありますよね。
それらのストレスを緩和し、心穏やかに暮らせるようになるメソッドが高校生にも大人にも必要ですね。
ま と め
スティーヴン・キングの『ハイスクール・パニック』は
高校生のやり場のない怒りとストレスをテーマにしたサスペンス小説です。
若い読者は大いに共感できる内容かと思います。
※最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。